届かない季節(漂流の章)(1)
「椋、こっちよー……ほらほら……
捕まえてごらんなさい。
かわいいアタクシの息子」

そう言って、蔦の冠を付けた女性は、
追いかけっこをする息子を、
歩みを止めて、ぎゅっと抱き締めた。
そして産毛がキラキラした、
自分の息子の額に接吻をした。

「あぁー何て気持ちが良いのだろう。
この甘い匂いは何だろう?
ずっと……このまま……包まれていたい。
あぁー母さまー……」

手を伸ばしてみた。
そこで椋ははっと目が覚めた。
横たわっていた身体を起こすと、
波の音だけが椋の耳に聞こえてきた。

「夢だったのか……」
ズーンと気持ちが落ちて……
しばらく途方に暮れていた。

病弱であった椋の母親は、
椋がまだ7歳の頃に既に他界している。
数少ない思い出しか残っていないが、
穏やかで優しい母親であったことは、
しっかり心に刻み込まれていた。

不思議と椋が困っている時や、
悩んでいる時に、必ずといっていい程、
母親の夢を見るのだ。
そして……
その後はだいたい難を逃れている。

「また、母さまに助けて貰ったんだね」
そう独り言を呟いて、
母親譲りのみごとな深い緑の髪を掻きあげた。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/05/12 02:39 】 | 届かない季節No.2(小説) | コメント(1) | トラックバック(0) |
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