届かない季節(翼の章)(4)
「何が起こったというの?」
一連の出来事が風の様に通り過ぎて、
少女はただ立ち尽くすのみだった。

「そうだよなあ。そう思うよな。
オレも必死だったから説明する暇もなくって……
ほんと驚かせてゴメンな」
この日初めて、いや、暫くぶりに司は笑顔を人前に向けた。

「そういえば……」
ちょっと冷静になった司は、今までお互いの名前も知らずに、
この場所に居ることに気がついた。
「お前の名前聞いて無かったな。オレは司っていうんだ。
これでも風の民なんだぜ。ほら……この翼が何よりの証拠!」
ちょっとおどけて翼を羽ばたいてみせた。

それを見て笑うどころか、益々、体を強張らせ、
深い深い琥珀色の瞳を潤ませながら、
少女はゆっくりと口を開いた。
「私の名前? それをお知りになりたいの?
変わった方ね。国のものは……皆……姫様としか呼ばないわ」
そう言った後心の中で呟いた。
「月の王女。茜(アカネ)。それが私の名前」

しかし暫くの間を置いて、茜姫は夜空を指差して、
「あら……今日は十五夜だわ」
と話題をはぐらかした。

「名前を聞いちゃマズかったのか?」
気まずい雰囲気に、司の焦りは違う方向に突っ走って……
「いや……名前は言いたくなったら教えてくれ。
それよりも……今は何だな……オマエ、腹減ってねえか?
少し寒くなってきたし、でもここじゃどうにもならねえや。
オレ達の村に来ねえか?」

普段ほとんど喋らない、
どちらかというと寡黙な司が、今夜は妙に饒舌になっていた。
月の力なのか……それとも……このお姫様のせいなのか……
少しずつ、少しずつ、運命の扉が開きつつあった。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/04/26 01:37 】 | 届かない季節No.1(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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