届かない季節(翼の章)(27)
洞窟はヒンヤリとして、それが楓の不安を、
少しだけ和らげていた。
「藍花、飲ませたな?」
「うん、大丈夫よ。上手くいったわ」
その声は壁に反響して、
楓の耳にもハッキリと聞こえていた。

ダッダッダッ……
タッタッタッ……
二人は楓に気がつくこともなく、
外に向かって全速力で駆け抜けていった。

「脱出成功! なかなか……やるじゃないか。
茜も行ったし、これでひとまず一安心だな」
二人の後を追いかけようと一歩踏み出した時、
楓の耳にうめき声が聞こえてきた。

ううう……あー……ううう……
気になった楓は声のする方に近づくと、
目を覆いたくなる様な光景が、
そこには広がっていた。

鎖で繋がれながら何人もの地底人が、
ギイギイと音を立てながら、
歯車を動かしていたのだ。

あまりの光景にたまらくなった楓は、
彼らに駆け寄り声をかけた。
「これはどういうことだ?
私は月からやってきた使者である。
やめー。皆、手を休めるのだ!」

歯車の軋む音が徐々に静かになって、
ギィーーーといって止まった。
すると……
ジャラジャラと鎖の音をさせながら、
憔悴しきった一人の男が、
ふらふらと楓の方に近づいてきた。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/05/05 17:34 】 | 届かない季節No.1(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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