届かない季節(翼の章)(22)
「んーー。
久しぶりに深酒をしてしまったようじゃ。
それにしても静かではないか。
誰か……誰か……これへ……これへ……」
すぐに侍従がやってくるところなのだが、
今日はいつもと様子が違っていた。

寝ぼけ眼をこらして初めて気がついた。
ここはこともあろうに……
以前双子の兄弟が幽閉されていた、牢獄の中であった。

「何ということじゃ!
王である……わしが何でこんな所に居るのじゃ?」
事の成り行きが全くわからない地底の王は、
ひどく動揺してその場で叫び出した。

キーイ……ガシャーン。
カツーン……カツーン……。
その音は地底の王の前で止まった。
「これはお目覚めでございましたか。
父上殿! おはようございます」
目の前に現れたのは、楓であった。

「おう、楓、そなたであったか。良かった!
早くここから出してはくれぬか!
誰がこの様な悪ふざけをしおって……」
言い終わるか終わらぬうちに、
楓が、くくく……と突然笑い出した。

「楓、何を……何を笑っておる?」
わが子の不穏な笑いに少し戸惑いながら、
地底の王は話しかけた。

「いや、これは失礼!
つい……父上、いえ……地底の王でも、
その様に動揺するのかと……思ったものですから……」
さきほどとは打って変わって、
ヒンヤリとした楓の声であった。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/05/03 16:30 】 | 届かない季節No.1(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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