「桃の木の下で」欠片(6)
「ルナ、僕だよ。覚えているかい?」
その言葉がルナの中で渦を巻き、
残響となって、いつまでも聞こえていた。

「誰? 私に話しかけてくるのは誰?」
二つの言葉は、お互いに近づこうと、
必死に手を伸ばそうとするのだが、
届きそうで届かない。

外見だけ判断するならば、
何も動かぬ人形にしか見えないルナであったが、
その内側では……
熱を持った感情が密かに身体を温め始めていた。

階段を昇ってくる足音が聞こえてくる。
ギィー……古びた扉を開けると軋んだ。
「ルナ様……ルナ様……ラビトでございます。
お目覚めなのでしょうか? 
今日は気持ちの良い天気でございますよ。
窓を開けましょうね。まずは爽やかな空気を召し上がれ!」

「えっ? 今度は誰なの? さっきの声とは違うわ。
とても優しい声。日差しの温もりを感じるわ。
でも、何か……とても遠い感じがする。
私は、今、何処に居るのかしら?」
身体の自由はきかないルナであった。

しかし、
「感じる事は出来る!」
自分の置かれている状況に戸惑いながらも、
その事だけがルナを安心させていた。

微風が頬を伝い、日差しの匂いを感じ、
そして……
ラビトが持ってきた焼きたてのスコーンが、
ルナの食欲を呼び寄せていた。
グググー……さらにお腹の虫も目覚めていた。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/06/29 16:36 】 | 桃の木の下で(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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