届かない季節(漂流の章)(40)
「うむ。この者の申す事を信じて良いものかどうか……」
気を失って倒れている河童を取り囲んで、
蛍はしばし腕を組んで考え込んでいた。

そこへ茜姫がゆっくりと河童に近づいてきた。
茜姫の羽からは虹色の光が放たれ、
あたりの輪郭を透明なものにしていった。

そして、茜姫がスーッと手を翳した瞬間、
蛍を始め、そこに居た皆の動きは完全に止まっていた。
かつて飛行民族の集まる家で、司と二人だけで話しをした、
あの時と同じ様に、茜姫は周りの時を止めていたのである。

さらに茜姫の指先からは幾筋もの虹色の光が出現し、
その光の糸が複雑に絡み合うと、
一枚の見事な虹色の絨毯を織り上げていた。

すると……
その絨毯は河童の身体の下に滑り込むと、
ゆっくりと空中に浮遊し始め、
森の中に入っていく茜姫の後に続いた。

水の音のする方に茜姫が進んでいくと、
鬱蒼と茂る芭蕉の木々の間から、
少し小高い丘が見えてきた。

茜姫は辺りを見回すと、さらに奥へと進んだ。
「ふふふ……よほど疲れてらしたのね……」
河童は手足をだらりとさせて、
絨毯の上で鼾をかき、ぐっすりと寝ていた。

目の前には十分な水量を蓄えた滝が、
清らかな泉へとその流れを繋げていた。
「なんてステキなところなのかしら。地上の楽園ね!」
思わず感嘆の声を上げる茜姫であった。
遠くの方から美しい鳥のさえずりが聞こえていた。

(漂流の章…完)

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/06/11 09:00 】 | 届かない季節No.2(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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