届かない季節(漂流の章)(28)
親の顔を知らずに育った楓。
かつて耳にした風の噂を、
地底の王は楓の涙を見ながら、
思い出していた。

きっと自分では気が付かぬうちに、
父親とほぼ同じ年齢の地底の王に、
父親像を重ねていたのかもしれない。
今までの孤独を思うと、
地底の王は楓をとても愛しく感じるのだった。

地底の王は独身であった。
若い頃に片道通行の恋に破れ、
月から遠く離れたこの地に渡り、
自分の帝国を作ったのだ。

その面差しは母親に瓜二つであった。
楓の顔を見た時思わず息を呑んだ。
そして……
運命とは皮肉なものだとも思った。

「楓様に水を持ってまいれ!」
浪々とした深い声で地底の王が言うと、
楓は急いで身だしなみを整え、
何事もなかったかの様に振舞った。

「それで……楓様、火急の用事とは? 
さて……何でございましょう? 
この私に教えて頂けますかな?」
微笑みながら、地底の王は話しかけてきた。

「私の両親についてお聞きしたい。
不思議な能力を得られるという、
水晶の守り札を私の両親が持っているらしいのだ。
それをあの男は狙っていたと……
これは真なのか否か。
ご存知ならお聞かせ願いたい!」
楓の眼は真剣そのものであった。

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

【2008/05/28 00:51 】 | 届かない季節No.2(小説) | コメント(0) | トラックバック(0) |
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